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2012年3月16日 (金)

「憂うつの心理」外岡豊彦 柏樹社

著者は、「抑うつ友の会」を創設し、うつ病の自助グループを主宰していた方である。うつ病に悩んでいる人の心理を実によくとらえており、提案している対処法も適切であると思う。うつ病理解のためにはぜひ読んでおくといい本である。

本の構成は次のようになっている。

第1部 うつ状態の正しい理解のために

 1.うつ状態に陥りやすい人の特徴

 2.うつ状態へ誘う諸状況

 3.うつ状態への傾斜時の自覚

 4.“死んでしまいたい”という気持ちをめぐって

第2部 ふさわしい対策の心得

 1.うつ状態での基本の心得

 2.ともかく主義のすすめ

 3.歩くことのすすめ

 4.うつ状態心得経

 5.第2部の補い

「因縁」という言葉がある。元々は仏教の言葉である。「因」は原因のこと、「縁」は環境のことである。「因縁」でうつ状態をとらえてみると、「因」がうつ状態になりやすい人の特徴、「縁」がうつ状態へ誘う諸状況と言うことになる。

著者は、「因」として次の6つを挙げている。

1.怠らず努力をつづける生き方

2.いろいろの物事にきまりのある秩序好み

3.人に悪く思われない配慮、家族や仲間のために尽くす、他者評価を重んじる価値観

4.良心的、自罰的で後悔の念が強い、職責感が強い

5.失敗経験が少なく順調な育ち

6.高い自己概念

つまり、うつ状態になりやすい性格の人は、努力家で、人への配慮が細やかで、責任感が強く、理想も高い、とてもいい人なのである。問題なのは失敗体験があまりなく(打たれ弱い)、やりすぎてしまうことである。

認知療法的に言うと、「べき思考」が強く、「対人過敏」で、「完全壁」があり、「自罰の念」が強い人がなりやすい。うつ状態になりやすい人は、こういった「自動思考」に陥りやすい。したがって、「認知(受け止め方)」を次のようにするような癖をつけていくといい。

1.100点を取らなくてもいい。70点で十分

2.いつも優等生でなくてもいい、たまには悪ガキもいい

3.他人は他人、自分は自分、人の評価は気にしない

4.うまくいかなくても、自分だけが悪いのではない

うつ状態にならなければそれに越したことはないが、なってしまった場合の対処の方法が第2部にまとめてある。

基本的な心のもち方として、次の3点が挙げられている。

1.精神的な具合の悪さを主とするが、本質的には生理的変調(間脳関係の内分泌の 変調)と同じような理解がむしろふさわしい

2.普通の心理状態の心の明暗の範囲をこえた、ある意味で“病的な範囲”に属す状態ととらえ、自他ともに常識的な考えをおしつけないこと

3.遠からず、元通りに直ること

そして、「ともかく主義」と「歩くこと」が進められている。「ともかく主義」というのは、「今ここで、何ができ得、どうするか」だけを、ともかくも決めて行っていくことである。うつ病になる人は、理知的なため、頭で考えすぎてしまう傾向がある。頭の中でぐるぐると思いを廻らし、現実の行動ができなくなってくる。「歩くこと」は心が自分の中へ中へと向かっていくのを方向転換させる効果がある。外岡さんの言葉を借りれば「心労過大、身労過小」の状態をバランスよく戻すことである。

「うつ状態心得経」が第4章に提案されている。少々長くなるが、大変参考になるため、引用する。

人の世に生きる 諸苦ありといえども うつの苦悩に勝るもの少なし

痛み強きに非ず 吐気・高熱・震えあるにあらず

言動概ね意にかない 読・書・算可能なり

然も猶うつの苦悩を最となす所以を尋ぬるに

自ら肩身せまく思い 自己不許可し 自ら己を責むるにあり

他者の吾を責むるは避くるに途あれども

自己の己を責むるは逃るるに処なく 離るるに時なし

しかあれども うつにありて心得べき智慧あり

一つには 一時気休めを計るなり

各人 気の休まる事・処必ずあり 自ら尋ね工夫すべし

二つには 一時切抜けを策すなり

心身低調といえども 一時なれば必ず事を処す力あり 他者の助けまた利すべし

時過ぐるのみにても切抜け得ること少なからず

三つには 一時自他をごまかすべし

うつなるを自にも他にもごまかし装うなり 之も亦勝智慧なり

一時なればなしあたわざるに非ず

四つには 暫く忍耐と心定むるなり

うつに陥り至る日時の積重しゃくじゅうあり 然れば復するに日時を要す 暫く

じっと耐ゆるを主とすべし

五つには 刻々現状肯定に努むべし

自己自身の現状及び為すところ 是認しがたしといえども 今ここに限り思わば

現状のままにても 障礙なき時と処とあるを自覚し得ん この自覚に従い

自責の中断を意図すべし

心身の不調すこしく回復し来たりなば この時を利し 心静かに省みるべし

1.従前のわが生 望むこと概ねものたりて過し来たり 望みはかなうが当然と思いなし

   執着努力に偏らざりしやと省みるべし 思うにまかせぬことあるが世の常と観ずべし わが心身もまた思うにまかせぬことあるを認むること 肝要ならん

2.又、わがなし来たれる処 わが思いを主となし 他者への配慮豊かに似たれども 他者の吾を悪く思わざらんの想いが主ならざりしやと省みるべし 

うつの苦悩に陥りたるをよすがとなして 他者の困危に出遇わば いささかなりと力を貸さんといとなむべし 利他行の不可思議の功徳 必ず己にも還り来たりて うつ状態軽癒の恵みあらんと信じ努むべし

更に根源を裁断せんと欲すれば 他者さして吾を斯く肩身せまく思い自らを許さざる その故如何と自問すべし 斯くなりたる因を悔ゆるに非ずして 何に據りてか斯く分別するやと静慮じょうりょすべし

自得するところあらば苦悩を減ずるのみに非ず

おのずか契かなうところあらん

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